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渦状言論へようこそ。

ここは、批評家・東浩紀が運営するブログです。東浩紀の経歴や業績については、hiroki azuma portalをご覧ください。

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思想地図・扉文2

うちの娘はアニメが大好きなのですが、アンパンマンもプリキュアもまったく見ていません。かわりにYahoo!動画で「名探偵ホームズ」を着々と潰したり、『亡念のザムド』のPS3配信を心待ちにしたりしています(なぜかザムドは大好きです)。これは別に親の方針というわけではなく、なんとなくうちで育ったらそうなったというだけのことなのですが、はたしてこんなんで彼女は保育園で話が合っているのでしょうか。いささか心配になってきた東浩紀です。

さて、思想地図の扉文、第2弾を公開します。特別掲載の入江哲朗さんの文章についてです。

校了前日の慌ただしさに紛れていささか褒めすぎてしまった感じもしますが(笑)、とはいえ、またひとり注目株が現れたことは確かです。あとは入江くんが、がんばってくれることを祈るだけですね。

入江論文紹介

若き批評家のデビュー作をお届けする。著者の入江哲朗は一九八八年生まれの二〇歳。ここ数年、宇野常寛や荻上チキ、また本誌前号の福嶋亮大や今号の濱野智史など新世代の論客がつぎつぎ頭角を現しているのはよく知られているが、この入江はそのなかでも抜群に若い。なんといっても昭和六三年生まれである。あと一年で平成生まれだ。昭和天皇が病床に伏せっていた時代に生まれた批評家が、活躍する時代になったのだ。批評の言語も刷新を迫られるはずである。

とはいえ、そんな「新新世代」の評論としては、以下の文章はおそろしくオールドスタイルで、そしてオーソドックスな印象を与えるはずである。彼が論じるのはテレビドラマでもアニメでもライトノベルでもない。北杜夫と三島由紀夫である。平野謙や河上徹太郎の名前すら見える。その保守性を歓迎する読者もいれば、逆にそれに失望する読者もいるだろう。

しかし実際のところは、そのような固有名に反応する読者はいずれも本質を見失っている。注意深く文章を読み進めれば、入江がここで問うているのが、現代社会で超越は可能か、超越の機能を失ったあと文学はどのように生き残るのか、といったきわめてアクチュアルで、また(いささか下品な言い方になるが)「ゼロ年代的」な問題提起であることは明らかだ。誤解を避けるために付け加えておくが、これはべつに、評論の最後で筆者(東浩紀)自身の名が言及されるから言っているものではない。筆者の印象では、入江は筆者よりもはるかに強く蓮實重彦の影響を受けている。筆者はむしろ、入江が蓮實のあのいかにも八〇年代的な修辞と隠喩でゼロ年代の問題を考え抜こうとしていること、その倒錯にこそ感銘を受けたのであり、だから本稿の掲載を決めたのだ。筆者の著作への参照は、おそらくは入江なりのサービスだろう。

最後になったが、この評論の掲載の経緯を記しておきたい。入江はいまから一年前、第一回の論文公募課題、「日本語で思考することの意味を問う」に蓮實重彦論の要約で応募を試みてきた。残念ながら論文の構想は背伸びが目立ち、執筆依頼にはいたらなかったが、当時の入江はまだ学部一年生であり、将来への期待を込めて接触を保つことになった。早い話が、「いいものが書けたら送ってよ」とだけ伝えて、あまり期待せずに(というのもこういう場合、ほとんどのひとはそこで書くのをやめてしまうので)飯を奢ったり相談に乗ったりしていたのである。ところが入江は、春になっていきなり四〇枚の完成原稿を送りつけてきた。それがこの評論の原型である。そして筆者は、一読して完成度に舌を巻き、失礼を詫びつつ二号での掲載を即座に決定した。したがって本稿は公募論文ではない。しかし公募をきっかけとした投稿論文ではある。

入江は現在、東京大学教養学部に在学中の二年生。私的な思いになるが、その若さとデビュー作の反時代性、というかある種の「空気の読めなさ」は、筆者自身のデビュー作である「ソルジェニーツィン試論」をどうしても思わせる。一九九三年に「ソルジェニーツィン試論」を読んだ読者は、まさかその書き手がのちに『動物化するポストモダン』を書くとは思わなかっただろう(筆者自身も思わなかった)。だから入江の未来も、ぼくにはまったく予測できない。しかし、とりあえず現時点で才能があることは確かであり、その誕生の場に立ち会えて筆者は嬉しく思う。(A)

追記

このエントリを書いたあと、なにげなく「入江哲朗」でググったところ、北田さんのブログで思想地図次号の目次が公開されていることを知りました。ここです。ご参考までに。


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