発言23

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さて、東さんの呈示された「レディスコミック」の画面についてもひとこと。

これにはひっくり返りました。こんなことになってたんかぁ!?

斎藤さんの

この漫画においては、まさに女性週刊誌的コンテクストの導入によって、きわめて異様でありながら、おそろしく解読の容易な画面が成立しているのです。

にも膝をポンと叩きました。確かに、レディコミ、つまり、より年齢設定の高い女性向けの漫画では女性週刊誌コンテクストは見逃せないですね。

とはいえ、この画像が異様に映るのは、伝統的な漫画表現技法、即ち、右上から左下に向けて順を追った形でコマが配置されるという文法とは対極にあるからでしょう。特に漫画読みに慣れた読者ほど脳内の文法書とこの画像との乖離、言い換えれば「入ってくる情報とデコーダの仕様のズレ」が大きいためドラッギーな感覚を覚えることになるわけです。


ところで、こうした見開き単位でリニアなコマの流れを破壊ないしは無視した画面構成はレディスコミックだけにとどまりません。私の主戦場であるエロ漫画の世界でも、ここまでワヤクチャな例はないにしても、ここ近年、似たような表現が出てきています。

見開き単位で、リニアなコマ割りのオヤクソクを無視するかのような、重層的で圧縮された表現が見られるようになってきたのです。

師走の翁(『師走の翁』、ヒット出版社)の画面構成がその代表例ですし、板場広しの最新単行本(『そんなことないよ』、ティーアイネット)にもその実例を見ることができます。また他の作家でもエロティックなシーンではこの「もんじゃ焼き」表現が多く見られるようになってきました。(「もんじゃ焼き」とは言い得て妙ですが、それじゃあんまりなので私は「マルチスクリーン・バロック」と勝手に名付けています)。

では、何故、こんな表現が出てきたのか? どのようなコンテクストが導入または流入しているのか? ここではレディスではなくエロ漫画に限定しますが、ざっと以下のような理由ないしは背景が考えられます。まだ考え中なので疑問も含めて思いつくまま並列的に挙げておきます。

  1. アニメ、ゲーム、パソコン、インターネット。
    これらの「モニター上の画面」における重層的でフレキシブルでインタラクティブなインターフェイス、画面構成。マルチスクリーン表現の増加したタイミングを考えるとこれが一番大きいのではないか? 漫画家でゲーム原画家でウェブデザイナーはゴロゴロいる。漫画家→原画家というコースも多いが、原画家やウェブデザイナーから漫画家へというコースも多い。
  2. 少女漫画の見開き構成。
    現時点ではどジャンルも多かれ少なかれ少女漫画の影響を受けている。スタイルにおける明確な区分があったのは24年組以前か? 話の流れとは無関係に投入されるブチ抜きの全身像(私の子供時代はスタイル画なんていい方がありました)。モノローグを多用する内面の表現→絵と言葉のギャップ。
  3. ランダム・アクセス性の高い書籍形態におけるアイキャッチ性。
    「漫画における時間」がそもそも重層的。トビラから始まって最終ページで終わるという作り手の意図するリニアな時間の流れは、読者の指によるランダム・アクセスによって常に裏切られる。その指を止める、アイキャッチを仕掛ける手法。アイキャッチから入って、物語を遡行的に読ませる。決めのコマにより多くを圧縮して充填し、見開きに拡げたともいえる。短期決戦である同人誌即売会ではアイキャッチ性が命というのとも関連する。
  4. エロ漫画のハード的(ページ数などの)制約。
    月刊で16ページ読み切りが基本。抜くため、あるいはエロティックな気分を楽しむためという機能商品でもあるエロ漫画では、エスカレーション勝負の側面が強い。しかし、このページ数ではすぐに限界がくる。できるだけ圧縮する。解凍するのは読者の脳内。インフレーションを続けることによって表現がバロック的に歪む。
  5. 漫画文法の伝統の切断によって起こった混沌化。
    描く側の漫画文法の継承が途切れていること。漫画ではなくイラストを出自とする「漫画家」の増加。

この他、気になっているのが、見開き単位での視線の移動がどうなっているのか?ということです。レイアウトの基礎理論では見開きの左上にまず視線がジャンプし、対角線を流れて次に右下に移動するということになっていますが、もしそうだとしたら、リニアなコマ割りの「右上から始まり、左下に至って次の見開きへ」という「縦書き文章を基準とした」流れとは逆転しています。漫画表現においては最初から視線が時間を裏切っているのかもしれません。ではマルチスクリーン表現ではどうか? 全体像をパンフォーカスで捉えているのか? それとも、アイキャッチ(文字を含む)間をデジタル的にジャンプしてているのか? あるいはそれが同時に起きているのか?

などなど、考え始めると止まりません。

ここは漫画表現論を一人としても、竹熊さんや伊藤さんの御意見を是非とも拝聴したいですね。



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